膀胱炎について
女性は生涯で2人に1人が膀胱炎になると言われるほどよくある病気です。尿をためておいて、排尿の際には勢いよく出す役割を持った膀胱の粘膜に炎症が起きている状態で、原因となるのは主に細菌感染です。排尿の最後に痛みが起こる症状が代表的なものですが、血尿や発熱を起こすこともあります。発熱している場合には腎盂腎炎になっている可能性もあります。ただし、慢性膀胱炎ではこうした症状があまり出ないまま進行することがありますので注意してください。
基礎疾患により起こっている場合もありますので、膀胱炎の症状に気付いたら泌尿器専門医を受診して適切な検査を受け、膀胱炎の種類や症状に合わせた治療を受けることが重要です。再発しやすいのですが、冷えないようにする・トイレを我慢しないなどの生活習慣改善で再発リスクを下げることができます。
膀胱炎の症状
- 頻尿
- トイレの回数が増える
- 排尿時の痛み
- 残尿感
- 尿の混濁
- 血尿
最初に現れるのはトイレの回数が増える症状です。1回ごとの尿量が減って回数が増えます。進行するにつれて回数が増えていき、残尿感を覚えるようになります。排尿時の痛みは、排尿による膀胱の急激な収縮で起こり、排尿の最後の方で、しみるような強い痛みを生じます。尿が白っぽく濁る、血尿が出ることもあります。
さらに悪化すると感染が拡大し、腎盂腎炎など腎臓にも感染が広がることがあります。発熱などの症状があったらできるだけ早く受診してください。
ほとんどの急性膀胱炎では強い症状がありますが、ご高齢の方や慢性膀胱炎では症状がほとんど出ない場合もあります。
膀胱炎の原因
ほとんどは細菌感染によって起こり、まれにウイルスや真菌感染によって起こることもあります。原因菌としては大腸菌によるものが80%程度を占めています。尿道を通って細菌が侵入し、感染して炎症を起こします。通常であれば細菌が侵入しても感染することはありませんが、疲労などにより免疫力が低下すると膀胱内の血流量が減って防御機能が弱まり、感染が起こりやすくなります。
女性は男性に比べて尿道が1/3程度と短いため細菌が膀胱まで侵入しやすく、膀胱炎は女性に多い病気です。再発もしやすいので、発症や悪化につながる冷えやトイレの我慢などをしないよう注意してください。
膀胱炎の種類
膀胱炎には単純性膀胱炎(急性膀胱炎)、基礎疾患が関与しているケースが多い複雑性膀胱炎(慢性膀胱炎)、そして合わない食物を摂取した際に起こるとされている間質性膀胱炎に分けられ、それぞれ対処法や治療法が異なります。
単純性膀胱炎(急性膀胱炎)
感染によって膀胱粘膜が炎症を起こしている状態です。基礎疾患のない女性に多く、男性の発症はかなりまれです。疲労、ストレス、無理なダイエット、風邪などによって免疫力が低下して発症するケースが多く、冷えやトイレの我慢などにより発症リスクが上がります。
頻尿、排尿時の痛み、尿の白濁、血尿などの症状があります。膀胱だけに感染がとどまっている場合には発熱することがほとんどないのですが、感染が拡大して腎盂腎炎などを起こすと高熱が出ることがあります。
治療では抗生剤を主に用います。比較的すぐに症状が改善しますが、症状がなくなっても再発や細菌の耐性化を防止するために医師の指示通りに服薬してください。
複雑性膀胱炎(慢性膀胱炎)
膀胱結石、尿路結石、糖尿病、膀胱がん、前立腺肥大症などの基礎疾患がある方がかかりやすく、男性の発症率も少なくありません。単純性膀胱炎に比べて症状が軽いことが多いのですが、感染が長く続くため腎臓などに感染が拡大する危険性も高くなります。基礎疾患の治療を行いながら膀胱炎の症状が強い場合には抗生剤の治療も行います。
間質性膀胱炎
間質性膀胱炎は最近、単純性膀胱炎とは別のメカニズムで起きている可能性を指摘されて診断や治療につながった新しい概念で、まだはっきりとした原因はわかっていませんが、特定の食物摂取が関与しているのではと指摘されています。単純性膀胱炎と違い、痛みは排尿時ではなく尿が膀胱にたまった際に生じます。実際に症状を起こすきっかけになるとされている食材には、チーズ・大豆・赤ワイン・柑橘類・カフェイン・唐辛子やワサビなどの香辛料があります。治療では、症状を緩和・消失させる薬物療法、合わない食材を見極めてそれを排除する栄養相談などを行っています。
膀胱炎の検査
問診で膀胱炎が疑われる場合には、尿検査をまず行います。タンパクや糖、ケトン体、潜血反応などを調べますが、膀胱炎では潜血反応や白血球反応が陽性になります。さらに尿を遠心分離機にかけて尿中の成分を調べる尿沈渣も行っています。これにより、腎臓や膀胱の状態も確認できます。女性は尿中に膣からの分泌物などが混じってしまう可能性があるため、こうした検査をすることで正確な診断が可能になります。
感染した細菌の種類を調べるために特殊な環境で尿を培養して菌を特定する検査も行います。通常の抗生剤に耐性を持った細菌による膀胱炎が増えてきていますので、適切な抗生剤を用いるためにも重要な検査です。
なお、採尿では出はじめではなく途中からの中間尿採取が正確な診断につながります。
単純性膀胱炎(急性膀胱炎)の治療
症状の強さや原因となる細菌に合わせた治療を行います。ほとんどの場合、大腸菌の感染によって起こっていますので、ニューキノロン系やセフェム系の抗生物質が有効です。ただし、最近は薬剤耐性菌が多くなってきており、薬剤感受性を考慮しないと慢性化しやすいので注意が必要です。一般的には3~5日分が処方され比較的早く症状が改善しますが、処方された薬剤は必ず最後まで飲み切ってください。他にも痛みが強すぎる場合には鎮痛剤の処方を行うなど、症状に合わせた薬物療法を行っていきます。なお、進行して腎盂腎炎を起こしている場合には、発熱や脱水などを起こすことがありますので点滴も重要になってきます。
細菌感染が原因ではない場合には、漢方薬を使って症状を緩和させる治療が有効です。当院では体調や体質などに合わせて保険適用のエキス剤を処方しています。
また、再発を防ぐために、飲水量を増やして尿により膀胱内の細菌を洗い流しやすくする、冷やさない、トイレを我慢しないなどのアドバイスも行っています。
薬剤耐性菌について
近年、抗生剤が効きにくい薬剤耐性菌が増えてきており、特に内科などで処方されることが多いペニシリン系の薬剤の耐性を持つ細菌が多くなってきています。膀胱炎治療にはレボフロキサシンなどのニューキノロン系剤、セフカペンピボキシルなどのセフェム系剤といった薬剤が有効な場合が多いのですが、レボフロキサシン耐性菌やセフカペンピボキシル耐性菌も出てきています。年齢や経過によって耐性菌の頻度が変わるため、抗菌材の服用で効果が現れない場合には尿培養や薬剤感受性検査を行った上で適切な薬剤を選ぶことが重要になります。
再発予防のために
清潔を保って細菌の侵入を防ぐ
- 生理ナプキンなどは2~3時間ごとに交換しましょう。
- シャワートイレのビデ使用はできるだけ避けましょう。
- 排尿後は、軽くペーパーを当てて水気をそっと拭き取る程度にとどめましょう。
- 排便後は前から後ろに拭くようにしましょう
- 排便後のシャワートイレは、ペーパーで局所をガードするなどして飛び散った水分がかからないようにしましょう
- 清潔を保つためでも過度の洗浄は炎症を悪化させるので控えましょう
- 性行為の後は必ず排尿して尿道の細菌を尿で洗い流しましょう
尿の量や排尿回数を増やしましょう
- トイレを我慢せず、尿意があったらすぐトイレに行って排尿しましょう
- 飲水量を増やして尿量や回数を増やすことで膀胱内の細菌の排出が促されます
- ただし過度の水分摂取は避けてください
免疫力低下を起こさないようにする
- ストレスや疲れをためないようにしましょう
- 風邪をひかないようにしましょう
- 冷えると血流が悪化して炎症を起こしやすくなるため、冷えないよう心がけましょう
- 睡眠や栄養の不足、過度なダイエットも免疫力が低下するので注意しましょう
正確な診断と適切な治療のために
膀胱炎の疑いがある場合、精密な尿検査が必要です。泌尿器科であれば初診の際に採尿から診断まで短時間に行うことができ、薬剤耐性菌による膀胱炎であった場合にも適切な治療を受けられます。膀胱炎は正確な診断と適切な治療を受けないと再発を繰り返すことが多く、慢性化して腎臓にも悪影響を及ぼす可能性も少なくありません。排尿時の痛いや違和感などに気付いたら、できるだけ早く泌尿器科を受診してください。